当記事では、公認会計士試験の企業法の勉強法について書いていきます。あくまで2011年合格者の一例として捉えていただければと思います。
全体的な勉強法については、公認会計士試験合格体験記の総論の記事をご覧ください。
企業法の科目概要
企業法は短答試験では100点/500点、論文試験では100点/700点を占める科目です。
理論のみから構成され、計算問題は原則として出題されません。また、理論科目の中では試験範囲が広く、合格水準に達するまでに必要な勉強時間は他の理論科目と比べて長くなります。
主に会社法から出題され、他に商法と金融商品取引法からも出題されます。
企業法の科目特性
科目ごとの特性を知っておきましょう。
企業法は法律科目であるため、会計科目とは別ジャンルです。そのため、得意とする受験生と苦手とする受験生が大きく分かれます。
合格水準に達するまで時間がかかりますが、いったん全体像を把握して体系的な理解が完成すると実力が下がりにくい科目です。体系的な理解が完成したあとは、論述の練習をすることで実力が伸びていきます。
また、企業法は法改正の影響を受けて変更点が出ますが、財務会計論や監査論のように毎年改正されるわけではなく、数年に一度程度です。そのため、改正の有無を確認しておくとともに、改正点があった場合は内容・改正の背景を理解しておいた方がよいでしょう。
全般的な勉強法
さて、科目特性を踏まえて、以下の作戦で勉強を進めていきました。
制度趣旨の理解が先決
企業法の初学者にとって、条文の制度趣旨の理解が生命線です。
条文がたくさん出てきますが、重要な制度趣旨は「株主保護」「債権者保護」「会社の事務処理の便宜」など、似たものが繰り返し出てきます。
学習初期段階では、テキストで重要条文が出てきたら六法で都度確認し、制度趣旨を理解するように努めました。細かい暗記事項は、全体像をつかんでから着手します。
イメージとしては「制度趣旨が幹、条文が枝、短答問題が葉、肢別問題は落ち葉」です。
テキストには条文番号を黄色マーカー、制度趣旨を赤マーカーでそれぞれチェックしていました。
条文検索力をつける
制度趣旨を理解したら、次は条文です。
企業法は、会社法などの条文をもとに出題されます。
ここで、条文そのものを暗記しようとすると、おそらく挫折します。
条文は検索するものです。
テキストを読んだり問題を解いたりしたときに条文に言及していたら、面倒でも必ず六法を開いて条文を探して読んでおきます。ついでにマーカーを引いたりメモを書いたりしておくとよいでしょう。何回も繰り返していると、条文構造が頭に入ってきて、体系的な理解の助けになります。
論文試験では六法が配布されますので、どの条文がどこにあるのか短時間で検索できる必要があり、かつ、短時間で検索できれば足ります。
例えば典型問題である「自己株式の取得手続」を問われたら、
「手続はだいたい160条あたりかな?決議は309条かな?取得手続規制の他に財源規制があって461条あたりかな?」
と、必要な条文に当たりをつけられるようになればOKです。
条文検索力をつけるためにも、普段からポケット六法を使用することをおすすめします。たまに解説付き六法も見かけますが、解説付き六法は条文検索力がつかないのでおすすめしません。解説を読みたければテキストを読めばよいのです。
受験生活中は、ポケット六法の会社法・商法・金融商品取引法の部分だけカッターナイフで切り抜いて、いつも文字通りポケットに入れていました。
論点は存在を知っておく
企業法には、学説が分かれている論点が存在します。
論点は条文に書かれていないので、暗記しないと答案に書けません。
そこで論点で最も重要なことは、論点を暗記する前に「どの分野に何の論点があるのかを知っておくこと」です。
論述問題で論点のあてはめを間違えても少しの減点で済みますが、論点にそもそも気づかないと大量失点するリスクがあるためです。
予備校によって異なると思いますが、おそらく資金調達と組織再編は論点がたくさんあるはずです。
論点も全体像をつかんでから、個別の論点について理解・暗記をしていくのが断然、効率的です。
なお、TACでは原則として判例の立場に立って論述することを推奨していたため、答案を書くときは判例の立場を踏襲して書いていました。
論文対策が先、短答対策があと
企業法は先に論文対策を行い、後から短答対策を行いました。
企業法では制度趣旨の理解と条文体系の理解が優先事項であることから、ある程度細かい暗記を要する短答対策を先にやるのは効率的ではないと判断したためです。以下、時系列順に書いてみます。
勉強開始~2009年1月まで
論文対策として、重要条文&制度趣旨リストが載っている講義レジュメを繰り返し読み、必要に応じて条文も読みました。
論文の勉強は、企業法の全体像を把握するのに非常に有用でした。この間、短答対策は一切やりませんでした。
2009年2月~4月
短答対策に入りました。過去問3年分、短答問題レジュメ(肢別形式595問)、TAC出版のベーシック問題集を最低6周は解きました。
具体的な勉強法は以下の通りです。
1:問題を解いた際、肢ごとに正誤を検討する。
2:正誤判定できた肢は◎、分からなかった肢は×、当て勘や選択肢に助けられ、分からなかったけど正解した肢は△をつける。
3:△と×については、関連条文につきポケット六法にメモやチェックを入れておく。
3月末時点で、企業法はある程度完成したという実感を得ました。
2009年5月(短答直前)
やったことは2つだけです。1日30分もかかりませんでした。
1:ポケット六法の速読
→会社法は第1条から979条まであり、これを7分(1条あたり0.4秒)で毎日通読しました。重要条文にはメモやチェックが入っていた為、記憶の維持にはこれだけで充分でした。
2:短答問題のうち、△の肢のみ回して解く
→◎の肢はもう分かっているわけですから何度も解く必要はないでしょう。また、×の肢についても、間違えたことで意外と記憶に残るものです。
しかし、当て勘で正解したような△の肢は、記憶が定着していないわけですから、次に解くと間違えます。よって、△の肢を回して解くことが、短答直前期に最も費用対効果の高い方法だと考えられます。
ちなみに、TACの受付で販売されている解説付き六法「短答パワーアップ」は買いましたが、ほとんど使いませんでした。
短答対策
短答・論文共通の話は以上になります。次に短答特有の対策について書いてみます。
事前対策
短答対策としては短答形式の問題を26穴バインダーに綴じて、グルグルと回転しました。重視した点は以下の通りです。
・問題ごとに解くのではなく、肢ごとに正誤を判定すること
・当て勘ではなく、正誤の根拠を言えるようにすること
・出題された点をテキストに書き込むこと
短答答練をグルグル回して解く+テキストを読んで理解&暗記する
というのがやっぱり王道なんだろうと思います。
なお、26穴バインダーは「セプトクルール」を使っていました。色が7種類あり、ちょうど公認会計士試験の科目数と同じですので、科目別に色を分けて整理することができるため、重宝していました。
また、26穴の穴あけパンチは「ゲージパンチ・ネオ」を使いました。耐久性に優れます。ただ1つだけ欠点があり、穴をあけるときに結構大きな音がしてうるさいため、自習室ではなく自宅で穴をあけることをおすすめします!
補足:バインダーは26穴のものを使うことを強くおすすめします。2穴のバインダーは紙がすぐに破れてしまい、教材が散乱するリスクが高いため、おすすめしません。
また、肢別問題集(〇×問題)を毎日100問(=100肢)解くことをノルマにしていました。
1問あたり10秒とすると、1,000秒=16分20秒で終わる計算になります。肢別問題集は595問あったので、これを毎日やれば、企業法全体を1週間で1回転できますね。
直前対策
直前期は根性型の勉強はやめて、コンディショニング作りを最優先にするため、勉強時間は多くても1日10時間に抑えました。新しいところをやるよりも、既存の知識のチェック!時間配分や「切る」ことも考えつつ、作戦を組みます。
以下の内容は、2009年5月の短答前に作ったメモです。内容的には古いですが、重要なことは本試験でどのような戦術を取るか、自分の得意不得意にあわせて事前に決めておくことです。
・前日に全範囲を広く浅く復習して知識を詰め込んでおく。時間がなければ商法は切ってもよい。
・全科目で唯一、試験時間が足りなくなる心配がない科目。慎重に解答すること。
・問題文の解答要求に必ず丸をつける。2008年の短答は20問すべて4肢、かつ「正しいものを2つ選べ」だったが、今年も同じとは限らない。
・割と得意な株式・機関から解く。
・問題文を読む際に「公開会社or非公開会社」「大会社or非大会社」「種類株式が存在する可能性」「委員会設置会社である可能性」を常に念頭に置いておくこと。
・分からない問題は、その分野の制度趣旨を思い出す。結局のところ「株主保護」「債権者保護」「会社の事務処理の便宜」あたりに落ち着くはず。
・2006年から2008年まで平易な出題だったが、今年は分からない。とはいえ、短答は1問や2問落としたってどうってことない。難問を出されても平常心を保とう。
・見直しをしても時間が余ったら、体力温存のために目を閉じて休んでおく。
2008年くらいの難易度であれば、8割は確保しておきたい。
論文対策
続いて、論文特有の対策について書いていきます。
守りの科目
企業法は問題数が少ないため、リスク分散効果は働きません。
問題文を1箇所読み間違えるだけで10失点とか、問題数が少ないことから普通に有り得ます。そのため、ギャンブル答案は禁止。会社の機関構成の特定を慎重に行い、守って書いていきます。
また、特定の分野を切るのはリスクが高いです。
例えば、持分会社の章を切ったとして、持分会社の問題が丸ごと出題されたら、ヤバいですねorz
ですので、あまり論点切らずに網羅的にやったほうがよいと思います。
公大委種
論述問題を解答するプロセスは3段階です。
1 問題文を読む
2 何を論述するか考える
3 実際に答案用紙に書く
このうちに1 問題文を読む際に留意すべきポイントは、会社の機関構成の特定です。
着目する点は4つ(※1)あり、頭文字を取って「公大委種」と呼んでいます。
(※1)以下に示す内容は、2011年当時のものです。その後、2015年5月施行の会社法改正により、監査委員会等設置会社が新設されました。そのため、以下の手法を実践する際には、監査委員会等設置会社であるか否かを含めて5つ検討すべきです。
1 公開会社or非公開会社
2 大会社or非大会社
3 委員会設置会社or委員会設置会社でない会社
4 種類株式発行会社or種類株式発行会社でない会社
これら点につき、問題用紙に「〇」「×」「?」という形でメモします。実際にケーススタディしてみましょう。
問題:以下の各ケースにつき、会社の機関構成を分析せよ。
「A会社は公開会社であり、種類株式発行会社でない株式会社である。」
→公〇大?委?種×
「B株式会社は公開会社ではなく、X氏のみが代表取締役である。」
→公×大?委×種?
「C株式会社は公開会社であり、監査役会設置会社であり、種類株式発行会社ではない。また、C株式会社の資本金は100億円である。」
→公◎大◎委×種×
「D株式会社の定款には、監査役につき会社法389条1項の旨の定めがある。」
→公×大×委×種?
このような作業を1問あたり1分くらいで行い、問題用紙にメモをしてから解き始めることでミスを減らしました。
答案構成練習
問題文を読んだら次は、何を論述するかを考えるフェーズです。
何を論述するかを迅速に考えるコツは、普段から答案構成練習を繰り返すことです。
答案構成とは、答案を書く前に、何をどのような順番で書くのかを問題用紙にメモすることです。
自分用のメモですので内容はシンプルに、スピード重視の殴り書きで大丈夫です。
普段の自習の際には、答案構成の内容と模範解答を必ず比較します。そして模範解答に書いてある内容を答案構成で書き落としていたら、次から書き落とさないように対策をしていきます。
題材はTACの答練と、上級問題集(論証例)を使用しました。答案構成練習に使ったあとは、模範解答を条文は黄色マーカー、制度趣旨は赤マーカー、論点は青ペンで囲むと決めて加工しました。
余談ですが、TACに通う電車の中で毎日のようにポケット六法を読んだり、論証例を読んだり答案構成練習をしたりしていたので、机に向かって企業法を自習した時間はあまりないと思います。
全速筆写
企業法は白紙の答案用紙に各自が解答を書いていきます。そのため、時間配分が重要になってきます。
書いている途中に時間切れになることを途中答案と呼んだりしますが、途中答案はできるだけ避けたいものです。
途中答案ができてしまう原因は、時間配分の誤りです。
そこで、時間配分の練習として、学習初期のうちに全速筆写を一度やってみることをおすすめします。回数をたくさんやる必要はないです。
全速筆写とは、模範解答を文字通り全速力で白紙に書き写す練習のことです。題材は模範解答付きの過去問がベストです。そして書き写す際にストップウォッチで所要時間を測定してください。
この練習をすることで、解答を書くために必要な所要時間を把握することができます。
企業法の試験時間は120分です。仮に全速筆写の結果が45分であれば、問題文を読む・答案構成をする・見直しをするといった時間を合計75分までに抑える必要があると分かります。
こうして時間配分ミスをするリスクを低減させていきました。
試験当日のコンディション
企業法は論文試験の最終日に実施されるため、疲労がピークに達している状況で受験します。
そのため、企業法は試験当日のコンディション作りが大切になります。
管理会計論の記事にも書きましたが、本試験が行われる10時30分~17時30分の時間帯に頭がフル回転できるように調整をすることが重要です。
以上が管理人の企業法の勉強法でした。
この記事を読んだ受験生の皆さんを応援しております。Twitterにも質問箱を設置していますので、何かございましたらお気軽にどうぞ。ただし時間の都合上、すべてのご質問に回答するという保証はできません。あらかじめご了承ください。
ではでは。